図で見る / PAS・VT内蔵

柱の上で、ケーブルはつかまなくていいのに、
PASはなぜだめ?

耐圧試験の3相一括。柱の上でクリップをつけていない点があるのは、どちらも同じ。ちがうのは、つかんでいない点に残っている道が「太い道」か「細い道」かです。

原理を理解するための教材

2つの形を比べる

どちらも、キュービクル側でケーブル3心を三線短絡し、試験器をつないでいます。柱の上は4口クリップ1個です。

○ ケーブル上端をつかまない

PASケーブル(上端)下の短絡VTの巻線(細い道)芯線(太い道)試験器クリップUVWつかんでいない

黄色の2点はクリップをつけていない。でも、芯線(青い太い道)で下の短絡とつながっているので、何もしなくても10,350V。白い点線の動きが、下から上がってくる充電の道。

✕ PASのUをつかまない

PASケーブル(上端)下の短絡VTの巻線(細い道)試験器クリップUVWUはつかんでいない

PASの端子には、芯線のような太い道がない。Uに残る道は、VTの巻線(赤い細い道)だけ。Uを充電する電流は全部この巻線を通るので、巻線の両端に電圧がかかる。

決め手は1つだけ。つかんでいない点に、太い道が残っているか。ケーブル上端には芯線という太い道がある。PASの端子には、巻線という細い道しかない。

なぜ「細い道」だとだめ?

PASのUにも、大地とのあいだに静電容量(コンデンサ)があります。交流なので、1秒に50回(60Hzなら60回)、充電と放電をくり返します。そのための電流は、どこかの道を通ってUに出入りしなければなりません。

Uにつながる道どうなるか
クリップ(太い道)電流はクリップを通る。UとVは同じ電圧で、巻線の両端は0V ○
VTの巻線だけ(細い道)電流が全部巻線を通る。巻線は電流を通しにくいので、両端に電圧が生まれる。それがVTにかかる ✕
何もつながっていない電流の通り道がない。その相が試験されないだけ(VTのない相のつかみ忘れ)

ケーブルの芯線は、ただの太い銅線です。電流が通っても電圧はほとんど下がらないので、上端も下端も同じ10,350Vになります。VTの巻線は、何千回も巻いたコイルで、もともと両端に電圧をかけて使う部品です。ここに試験の充電電流を通すと、巻線に電圧がかかってしまいます。

計算できる電流と、分からない焼損限界

負担から計算した電流は、巻線の許容電流や焼損限界ではありません。確認したメーカー資料では「何mAで何秒なら焼損するか」は分からないため、以下の数値で試験の可否は判定できません。一相ごとの試験を避ける根拠は、メーカーの禁止事項です。

① 定格負担を一次側の電流に換算する

メーカー・一次資料定格負担負担の一次換算電流
(負担 ÷ 6,600V)
戸上電機・VT内蔵GR付PAS「定格および仕様」25VA約3.8mA
日本高圧電気・取説-PAS-07-H「内蔵VT」10VA約1.5mA

この換算は、定格負担を供給するときの負荷分を一次側へ置き換えたものです。励磁電流・損失を含む一次全電流とは別で、線径・許容温度・許容通電時間はここから分かりません。「数mAまでしか流せない巻線」とは読み取れません。

一次資料確認:2026-10-24。日本高圧電気はPDF表紙の改訂記号Hを確認(URLのファイル名はB)。両資料の発行・最終更新年月は明記を確認できていません。対象製品の銘板と最新版の取扱説明書を優先してください。

② ケーブルの充電電流は概算できる。ただし条件がある

VTの反対側にケーブルが接続され、その心を充電する電流がVTを通る等価回路を考えます。VTのインピーダンスがケーブルの容量リアクタンスより十分小さいという仮定なら、流れる電流はケーブルの充電電流で概算できます。上の「PAS端子のつかみ忘れ」の図へ、ケーブルの長さを無条件に当てはめるものではありません。

I = 2πfCV
計算例:1心の静電容量を0.32μF/km、印加電圧を10,350Vと仮定
仮定するケーブル長50Hzの概算60Hzの概算
5m5.2mA6.2mA
10m10.4mA12.5mA
15m15.6mA18.7mA
30m31.2mA37.5mA
50m52.0mA62.4mA

この表は焼損の判定表ではありません。巻線抵抗が同じなら銅損はI²Rで増えますが、①の換算電流との比から実際の発熱倍率や焼損時間は求められません。巻線抵抗、励磁特性、熱特性、実際の結線が必要です。静電容量もケーブルの型式・構造や実測値で変わります。

③ 過電圧と磁気飽和も、実機の特性が必要

二次側が開放されたVTでは、励磁インダクタンスと対地静電容量によって、巻線に大きな電圧が現れる場合があります。シミュレーターの数値は設定した線形モデルの結果で、実機の電圧や焼損を保証するものではありません。

磁束密度が高くなって鉄心が飽和すると励磁電流が増大しますが、「定格の1.5倍で必ず飽和する」という共通の境界は置けません。そのVTの励磁特性、周波数、波形などが必要です。特性未確認のまま飽和後の電流を数値で断定しません。

④ 数字より先に、メーカー指定を守る

二次側(P1・P2)の開放・短絡などで一次側から見た状態は変わります。しかし、どちらの状態でも一相試験を安全にできるとは判断できません。主回路端子の一括接続、開閉器の状態、制御線の処置は、実機の型番に対応する取扱説明書と作業責任者の指示で確認してください。別機種の手順や個人ブログの結線を転用しないでください。

事故例を読むときも、確認できた範囲を分ける

一相ずつの試験で内蔵VTが焼損し、その後の投入時に事故になったという紹介があります(でんきメモの事例紹介)。これは第三者の紹介で、ケーブル長・電流・焼損時間は確認できません。①②の数値からこの事例を再現したとは扱いません。

水でたとえると

電気水
試験器ポンプ
電圧水圧
芯線・クリップ太い水道管(水圧が下がらない)
VTの巻線細くて長いホース(水が通りにくく、流すと出口の水圧が下がる)
対地静電容量水を出し入れするタンク

ケーブル上端は、太い水道管で下とつながったタンク。ポンプの水圧がそのまま届きます。PASのUは、細いホースだけでつながったタンク。タンクに水を出し入れするたびにホースで水圧が下がり、ホースの入口と出口に水圧の差ができます。この差が、VTにかかる電圧です。

確かめたこと

出典:日本高圧電気 取説-PAS-07、戸上電機 VT内蔵GR付PAS、電気屋の気まぐれ忘備録、でんきメモ(事例)、でんきメモ(P1・P2)

つながる教材